【ブルアカアニメ】カイザーローンの利率はどれくらい?
私は最近1日100回感謝のブルーアーカイブ𝑻𝒉𝒆 𝑨𝒏𝒊𝒎𝒂𝒕𝒊𝒐𝒏全話視聴が日課になりつつあるのですが、先日公開された*1第4話「覆面水着団」を視聴していた際にあるセリフが気になりました。
カイザーローンの銀行員「現金788万3250円、確かにお預かりしました」*2
私はゲームの方でストーリーは一読しているものの、ゲームでストーリーを読んだ当時は細かい数字まではあまり覚えてなかったのですが、なるほどアビドス高等学校(以下「アビドス」と呼称)の生徒たちは毎月788万円の借金を返済しているのでちょっと待って!?!?788万!?!?!?!?ぼったくりやろこれ!!!!!!!!
アビドス高等学校は3年生小鳥遊ホシノ、2年生十六夜ノノミ/砂狼シロコ、1年生奥空アヤネ/黒見セリカの計5人しか生徒が所属していない学校*3。全員が同等のお金を稼ぐ能力を持っていると仮定しても、1人1日あたり万人日円を稼いでいるという計算になります。高校生が勉強や学校の警備と並行して毎日5万円も稼いでいるんですか………????「30分で、5マン!」←本当にこれに手を出してないとにっちもさっちもいかなさそうな苦しい状況なことある???
こんなの言うまでもないことではありますが、高校生である15~18歳は多感な時期であり、高校生の時の経験はその後の人生においても非常に大きな価値を持ちます。勉強だったり部活だったり恋愛*4だったり、本来であれば様々な経験を得られたはずの高校生という貴重な時間を、こともあろうに学校の抱える借金返済のためのお金稼ぎに使わなければならない……こんなの不条理以外の何ものでもありません。私も生徒たちの健全な成長を願う教員の1人として、アビドスの借金返済のために彼女達の時間が取られている現状には遺憾の意を禁じえませんし、少しでも彼女たちが学校のためではなく自分のために高校生としての時間を使えるように願わずにはいられません。
とはいえ、ここで何を言えども力になってないなら何もしていないのと一緒です。どうにかして彼女らの力になってあげられないか、そう思っていた時に、また別のセリフの存在が脳裏をよぎりました。
カイザーローンの銀行員「この調子でいくと、完済まであと309年と2ヶ月ですね!」*5
え??一月に788万も返してるのに完済まで300年もあるの???
確かに、アビドスの抱える借金は9億6235万円と決して安くは無い額です*6し、利息もあるはずですから、払ったお金を全て元本の返済に当てられるわけでもないでしょう。しかし、にしても300年は長い……長くない?
完済までに時間がかかるということは、毎月の支払いのうちの多くが元本の返済ではなく利子の支払いに割かれてしまっているということです。逆に利息の額を減らすことが出来れば、毎月の支払額を減らさずとも完済させるまでの期間を大幅に短縮することができるはずです。
ところで、法学徒としては利息の額が大きくなってきた時には、利率が違法な数字になっていないかを気にする必要があります。ましてやカイザーローンは「悪徳な金融業者」*7。違法金利になってる可能性は当然ありますし、もしそうであるなら利率の是正によって利息の額を低減することができるはずです。 問題のアビドスとカイザーローンの間における利率なのですが、「カイザーからアビドスへの貸金の利息は法定利率を超過している」「支払金利がおそらく9.83%」というツイートは出てきたものの、いずれも根拠や計算過程が判然としないものばかりでした。
ということで今回は、カイザーローンが違法な利率を設定する悪徳金融業者かどうかを計算します。
なお、本記事では
1.民事法に関して、キヴォトス連邦法として日本の現行法(2024/05/02現在)と同様のものが採用/施行されている。
2.民法第5条1項、同2項(未成年者取消)に関しては考慮しない*8。
3.借入金総額や月の返済額についてはアニメに準拠し、
①現在アビドスが抱える借金は962,350,000円
②アビドスは毎月7,883,250円を返済する
③ このままだと完済まであと309年2ヶ月かかる*9。
4.金利は固定金利とし、金利が変化することは一切ないものとする*10*11。
以上を前提としてお話をします。
1.違法金利とは
さて、まずアビドスとカイザーローンの間で結ばれた契約について紐解いていきます。
アビドスとカイザーローンの間で結ばれた契約は金銭の貸借契約であり、民法においては「消費貸借契約」と呼ばれる、典型契約のひとつに分類される双務契約です(民法587条)。民法においては、私人間の契約に関しては契約自由の原則と呼ばれるルールがあり、契約の当事者は契約の内容について自由に決定することが出来る(民法521条2項)ため、一見どのような利率を設定しようが契約当事者間の自由に思えますが、これには「法令の制限内において」という留保がされています*12。本件の場合は消費貸借契約の利率に関する「法令の制限」な訳ですが、これは利息制限法1条各号より、元本の額を万円として
のとき、20%/年
のとき、18%/年
のとき、15%/年
が上限と定められており、これを超える分については無効となります。先述の通りアビドスが抱える借金の額は9億をゆうに越えていますから、基本的には年利率が15%を超えているかどうかが争点となります。
2.ひとまず概算
消費貸借契約においては当然元本が変動すると毎月の利息額も変動するため、正確な利率を計算するためには漸化式を立てる必要があるように思われますが、その前にまずは概算ガバガバ計算で利率を計算してみます。概算で15%超えてたらその時点で違法金融業者と認定できますからね。
9億6235万円の元本を309年2ヶ月3710ヶ月かけて返済する場合、ひと月辺り万円の元本をコンスタントに返済出来ればいいということになります。すると、月返済額7883250円の内訳は元本返済26万円:利子返済762万3250円となり、元本9億6235万円に対して利子返済に割かれる金額と同額となる762万3250円の利子が毎月発生していることになります。よって、……より、月利は元本の0.79%であり、これは年利に換算するとより約9.5%となります*13。
なんてことでしょう。カイザーローンは悪徳金融業者と聞いてたのでてっきり15%をゆうに超える数字が出てくると思っていたのに、蓋を開けてみれば年利は誤差を加味してもせいぜい10%という数字が出てきてしまいました。小学生にも分かるぐらい合法な利率です。カイザーローンは法律を遵守する優良貸金業者だったようです*14。
ごめんなアビドスのみんな……先生と法律は無力だったよ………
3.ちゃんと計算しよう
待って!あきらめるのはまだ早いよ!
先程のはガバガバ計算概算でしかありません。実際の金利は前章で計算したのより高くなっているはずです*15*16。今度はしっかりと計算していきましょう。
本件の利率を正しく計算するためには、毎月の元本返済に基づく元本減少額を加味した利息の額の変化に対応しなければならないため、ここは月目の返済前における元本の額を円、月利率を%とした漸化式を立てていきます。すなわち、1月目の返済前にある元本の額は現在の元本の額ですから、2月目の返済前にある元本の額は、1月目の返済処理後の元本の額になりますから、となります。また、3710月目の返済をもって完済になるということですので、3711月目の返済前の元本の額、すなわちとなれば良いわけです。
改めて、以上をまとめると、月目の返済前における元本の額を円、月の利率を%とした時に、
という3つの条件を同時に満たすようなを求めればいいわけですね。
では計算をしていきましょう。これは高校数学Bの漸化式分野の典型的な問題形式*17なので、受験生の人は自力で計算してみてください。計算を進めていくと分かりますが人力では解けない問題でした。一般項求めるまではいけるので、受験生の皆さんは一般項特定まで頑張るのでいいです*18。
まず一般項を求めます。
漸化式に対して、
という式変形が成り立つと仮定した場合のについて、
、より
よって、漸化式を変形すると、
とするとであるから、
よりであるから、一般項は
これで月利率を用いて一般項(年目の返済前の元本額)を求めることができたので、次はいよいよ月利率の計算です。
……なのですが、このままいくとというカスみたいな計算によって展開時に3711項の計算をしなければならず、流石に手が負えないためここは、として数式を書き換えます
両辺を倍すると、
流石に3711次方程式を人力で解くことは不可能なので、ここは潔く計算サイトに計算してもらいましょう。wolfram alphaにこの3711次方程式を入れて実数解を計算してもらうと次のような返答がきました。
は1よりも大きい数なので、これを満たすのは…のみのようです。これをに代入すると、月利%と求められます。
………あれ?思ってたより数字が伸びてませんね。い、いや、嘘だ……でも一応計算しないと………これを年利に直すと、%……
薄々気づいてはいましたが、やはり、年利に直しても15%は超えていないようです。カイザーローン社は利息制限法を超える利率を設定したりはしていないのですね。そ、そんなぁ……
ごめんなアビドスのみんな……先生と法律は無力だったよ………(再放送)
4.生徒たちに土下座をしよう
以上より、カイザーローンは少なくともアビドスとの消費貸借契約においては利息制限法を守っており、悪徳金融業者では無いことが判明してしまいました。あれだけ「みんなの借金を減らしてあげよう!」と息巻いていたにも関わらず、蓋を開けてみればこの体たらくです。
このままではあまりにも示しがつかないというもの。私はこれからアビドスの生徒たちに土下座して謝罪し、彼女たちと一緒に借金の返済を頑張るべく、マグロ漁船に乗り込まなければならないので、この記事はこの辺でお開きとなります。ではでは。
5.参考文献
・アビドス商店街「ブルーアーカイブ The Animation」(2024年) Yoster
・NEXON Games、Yoster (2021年)「ブルーアーカイブ -Blue Archive」[ビデオゲーム] NEXON Games
・民法< https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089 > 5条1項2項、121条の2 2項、521条2項、545条2項、587条
・利息制限法< https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000100 > 1条
・法務省「令和5年4月1日以降の法定利率について」< https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00317.html >(最終閲覧:2024/05/09)
・アイフル「消費者金融の金利の相場はどのくらい?銀行やキャッシング機能との比較、賢い借り方を紹介」< https://www.aiful.co.jp/cardloan/interest-rates-overview/ >(最終閲覧:2024/05/09)
・一般社団法人 全国銀行協会「金利のはなし#4」*19< https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/education/free_publication/pamph/pamph_05/loan05.pdf >(最終閲覧:2024/05/09)
・hibiki works『LOVELY×CATION』(有限会社AKABEiSOFT2、2011年6月24日)*20
おわり
*1:この記事は当該話が公開された翌日に書き始めたためこのような表現になっていますが、公開時現在既に先日とは言えない日数が経過してしまいました。
*2:第4話より引用
*3:第1話、シロコのセリフより
*4:アニメ描写よりキヴォトスには先生以外にヒト族の雄が存在しないと思われるのですが、キヴォトスでは百合がマジョリティなのでしょうかね。そうだといいなぁそうに決まってる
*5:第1話より引用
*6:第2話、アヤネのセリフより
*7:第2話、ホシノのセリフより
*8:作中に、親をはじめとして先生以外に生徒達の味方をしてくれる、法定代理人となりそうな「大人」の存在が描かれていないため。なお、これを考慮した場合、消費貸借契約を生徒が勝手に結んでいた場合には未成年者取消で取り消して返還義務を現に利益を受けている範囲に限定する(民法121条の2 2項)ことは可能だと思われますが、アビドスは借りたお金を遊興費に使った訳では無く、借金の返済に充てた場合には現に利益を受けていると見なすので、原状回復義務によって借りたお金全額を変換することになり、民法545条2項により利息を含めて変換しなければならないため、畢竟返済しなければならない額はほぼ変わらないということになります。ちなみに、約定利率が法定利率(3%/年)を下回る場合には法定利率で計算をすることになるため、取り消さない方が安くつきます。
*9:ゲームでは月の利子が約788万円であり完済までの所要年月が描写されていないなど毎月の利子を支払うので精一杯で元本の減額までは手が回っていないように見受けられますが、これではあまりにも救いが無さすぎるため……
*10:作中ではカイザーローン銀行員より変動金利との説明がされている(ゲーム版メインストーリーVol.1 第1章 第10話)が、変動については流石に考慮のしようがないため
*11:なお、借金額の変動により利率上限が変動する場合はこの限りでは無い。
*12:これは例えば本件のような金銭消費貸借契約において、貸主が借主の足元を見て年5000兆%!みたいなクソ高利率を設定して暴利を貪ることを防ぐ趣旨です。
*13:月利を年利に換算する場合、12乗ではなく12倍にするらしい(参考:https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/education/free_publication/pamph/pamph_05/loan05.pdf )。
*14:厳密には法律を守ることと優良業者であることは対応関係にはありません。が、少し調べたところ、大手消費者金融で無担保でお金を借りようとすると(特に初回は)大抵利息制限法の利率上限に近い利率を設定されてしまうみたいなので(参考:https://www.aiful.co.jp/cardloan/interest-rates-overview/ )、そういったことを考えるとカイザーローンはまだ良心的な企業と言えるのかもしれません。
*15:前章の計算では毎月の支払いにおける元本返済額と利子返済額の割合が常に固定されていましたが、実際は支払いを経る事に元本の額が減っていくため、利息の額も減ります。
*16:前章の計算だと、3710月目、最後の支払いにおいては元本26万円に対して利息が762万円強発生していることになり、最終月における利率は脅威の約2970.77%、年利に直すと実に6000京%↑となります。先程5000兆%とか言ってたのが霞んでしまう数字が出てきてしまいました。おもろ。
*17:数字は大きいですが……
*18:受験生はこんな駄文読んでないで勉強してください。
*19:本来パンフレットの冊子名を記すべきところですが、原本の名前が調べても出てきませんでした、、
*20:ただし本記事における引用は所謂「立ち絵鑑賞モード」で有志が作成した画像であるため、会話内容は本編とは関係ないことに留意